発達障害とピアノレッスン
こんにちは。
LaLa GIft 代表の松本恵です。
前回のブログで、ピアノ指導でも広く一般の育児でも「スモールステップ」で取り組むのが有効であること、スモールステップで小さな成功体験を積めばポジティヴマインドを育ちやすくなることをお伝えしました。
私の小さなピアノ教室を、「ホームページを見ました」とたずねて来られる方のなかには、
「小さな成功体験を重ねることで自己肯定感を高める」という一文にひかれて、という方もいらっしゃいますが、ホームページには、もう一つ、大事な一文を入れてあります。
「発達障害などのお子さまのご指導もいたします」
これを見つけて、どうしてもこの教室で学ばせたいと言って来られるお母さんたちが今まで何人もいました。
「ほかのピアノ教室に通っていたんですが、うちでは無理、と言われてしまいまして」
「特別支援学級に通っていますが大丈夫でしょうか」
「新しいことに慣れるまですごく時間がかかるので先生にはご迷惑かもとは思いますが」 ダウン症、脳梁欠損、自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)など診断名がついている子どもや、何らかの発達障害が疑われる子ども。
お母さんたちは困りつつ、でも何か良い方に変わるかもという可能性を信じてピアノ教室に来られます。
私自身が、発達障害の息子を育てた経験があることを伝えると、皆さん、少し安心されるようです。
私は発達・心理の専門家でも音楽療法士でもありませんが、自分の経験が、ほかの人の役に立つかもしれないと信じて、どんな子どもも受け入れています。
残念ながら私の経験がほとんど役に立たないケースもあり、また対応が難しくて徒労感に襲われることもあります。
逆にピアノが好きになって集中して練習しているうちに、ほかの学習面でも良い影響がでてきたとか、人前で話すことがすごく苦手だけれどピアノは大好きで、音楽で自分を表現できるようになってきたとか、本当に嬉しいケースも、数は多くありませんが確かに経験してきました。 すぐれたピアノの先生はたくさんいらっしゃいますが、発達障害に詳しいピアノの先生はそれほど多くないと思います。中嶋恵美子先生はその第一人者的在で、ご著書はずいぶん参考にさせていただいていますが(『あきらめないで!ピアノ・レッスン』など)、とにかく私も、その分野にいくらか強みのある一人としていろいろなタイプの生徒さんと向き合っています。 ここまでの話は発達障害などに縁のない方にはまったく興味がもたれなかったかもしれません。ところが、なんです。 ピアノ指導に限らず、育児や指導のさまざまな面で、発達障害の子どものための工夫が、定型発達の幼児にも見事に応用できるということが多々あるのです。
スモールステップはすべてのお子さんに有効
前回のブログでも書きましたが、私の場合、療育でもふつうの育児でも
ピアノ指導でも、やることは違っていても根本的な考え方は一緒です。
スモールステップで小さな成功体験を積んで自己肯定感を高め、「やればできる!」のポジティヴマインドを育てること。
なので今、発達障害はじめ少し特別なニーズをもった子どものための育児・指導のスキルが、実はすべての子どもの育児・指導に役立てられるという信念をお伝えしています。 さて、発達障害って何?と聞かれたら、「かんたんに言えばできることとできないことの差が大きく、発達段階がでこぼこのことだよ」と私は答えます。もう少していねいにいえば、見え方や聞こえ方などの認知機能が一般的な人たちとは少し違う、つまり情報のインプットのされ方が違うので、アウトプットとしての言動も一般的な人たちとは違ってしまう、ということでしょうか。
この辺りの詳しい話は別の機会にまわしますが、息子がまさに発達障害だったので、私も専門家ではないけれどある程度の知識と経験があるというわけです。
前回のブログで、ある病院の発達外来の専門医が、言葉がなかなか出ない息子から見事に「ちょうだい」というワードを引き出したという事例をご紹介しました。それはワードを引き出すまでのプロセスをシロウトには思いつかないくらい細かく分けて、つまり「スモールステップ」化して上手に働きかけてくださったからでした。またそれ以前に、これく
らいの発達段階ならこれくらいの働きかけが奏功しそうだなという専門家ならではの判断が正しかったことの現れでもありました。 私は息子の口から「ちょうだい」というワードが出たことに驚き、喜ぶとともに、特別なニーズをもった子への働きかけはこうあるべきなのか、と心の底から感銘を受けたのです。 その後、別の療育の専門家からのペアレントトレーニングを受けつつ息子への働きかけが長く続くわけですが、そうやって学び、積み重ねてきたことが、定型発達の娘たちにも応用できたり、ピアノレッスンでも役立つことにやがて気づいていきます。
私のピアノ教室は、4歳くらいからのお子さんを指導しています。
4歳から、と明言しているわけではないので、なかには4歳の誕生日まであと数ヶ月、というお子さんが連れられてくることもあります。
はじめの何回かのセッションでまず大切なのは、そのお子さんの発達段階がどれくらいなのか客観的に考えることです。 幼児の発達には、かなりの個人差がありますので、4歳前でもレッスンが成り立つお子さんもいれば、5歳近くなってもなかなかレッスンらしいレッスンができないお子さんもいます。
なので年齢、月齢で考えるのではなく、この子はいま、どれくらいの発達段階かということをいつも念頭に置いておかなければなりません。
色がわかって数字が読めて、右と左の区別がつくくらいの段階であればピアノレッスンを始められますが、そうでない場合は年齢・月齢に限らず、リトミック的な遊びやお歌から始めます。もちろん、いつもスモールステップを意識して、ちょっとやってみたらできそうなことをやらせます。たとえば「せーの、ぽーん!」のかけ声でスポンジのボールを投げるとか(いつも自分の靴下を丸めて投げていた子もいました笑)、本当に簡単なことから始めて、うまくタイミングがあったら一緒に喜ぶ、を繰り返しているうちに少しずつちょっと次の段階へ進めるようになります。
聴覚過敏のお子さんのケース
ただ、そんな働きかけがなかなか響かないお子さんもいます。
とくに発達障害など特別なニーズをもったお子さんの場合、通常のスモールステップの課題であまり効果がでないことも珍しくありません。
先に発達障害の人は見え方や聞こえ方などの認知機能が少し違うと記しましたが、たとえば聴覚過敏のお子さんの場合、私の話す声が大きすぎて苦痛に感じるため、話す内容がまったくインプットされないということがあります(実は幼い頃の息子がまさにそのタイプでした)。
もしそういう徴候がお子さんに見て取れたら、小さな声でささやくように話してみます。
するとこちらを向いてくれるということがあるのです。
この聴覚過敏は、実は発達障害でなくてもふつうのお子さんの間にもかなりいるのではないかと、私は感じています。
かなり前のことですが、ピアノでフォルテを出すのが嫌いな女の子がいました。頭も良くピアノ演奏も上手なその子に、ソナチネでもう少し大きな音が欲しいと言ってもダメなので、ある時ふと気が付いて、「学校の体育館でみんながわーわー騒いでいるような時って、ちょっとつらい?」と聞いてみるとその通りだったのです。 その子には、「自分でこれから大きな音を出すぞ」と思ってから大きな音でピアノを弾くのは割と大丈夫なんじゃないかな、と言って、少しずつ大きな音に慣れさせていきました。 大きな音が苦手でなくなることは自分にとってラクになることなのだとその子は理解して、次第にピアノを利用して大きな音に慣れるよう積極的に取り組んでいきました。 別の男の子は、やはりいつもかぼそい音で静かな曲を弾くのを好むので、同じように聞いたところ、「プールでもぐって、息が続かなくなって水面に顔を出した瞬間に周りがワ
イワイガヤガヤって聞こえるのがすごくイヤだ」と教えてくれました。
大きな音が苦手、というのは、親でも気づかずにいるくらいのことかもしれませんし、それだけで特別なニーズをもった子どもとは普通はみなされないでしょう。
でもそれが原因で何らかの学びのチャンスを逃したり、社会での活躍の場が限定されたりする可能性もあるので、できれば気づいて何か工夫してあげたいところです。 聴覚過敏がすぐに解消されるわけでなくても、自分は少し聞こえ方に敏感なのだと知っているだけでラクになるという面もありますので、私はレッスンを通じて気づいたら子どもにもわかるように伝えるようにしています。 これが、特別なニーズをもつ子どもから学んできたことの一例です。 ほかの例はまた別の機会にご紹介しますが、発達段階をみきわめることやスモールステップでのレッスン、一人一人に合わせた指導など、発達障害も定型発達も関係なく実践していることがたくさんあります。
発達障害、音楽教育、ピアノ指導、などのキーワードで読者の皆さまとつながれれば望外の幸せです。
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